【2022年】大学院経験者インタビュー
左から成田さん、兼古さん、橋本さん
税理士試験では、一定要件を満たしたうえで大学院(修士課程あるいは博士前期課程)を修了すると、一部の試験科目が免除となる制度があります。そのため、科目免除することが可能な大学院に進学する税理士受験生は少なくありません。
税理士試験の科目免除を申請するためには、大学院での単位(税法2科目免除の場合は税法科目4単位以上/会計学1科目免除の場合は会計学4単位以上)修得と修士論文の執筆・審査認定が必要です。免除申請は、申請する分野(税法に属する科目または会計学に属する科目)で1科目を合格した後でなければいけません。
さて、税理士受験生の皆さんからは「働きながら大学院に通学するかどうか迷っている」「大学在学中に税理士受験を開始したが、そのまま大学院に進学することを検討している」といった声を多く耳にしますが、実際のところ「大学院」を経由して税理士登録をした実務家の情報はあまり流通していないのが現状です。そこで、今回は「大学院」をテーマに、あいわ税理士法人で活躍する若手税理士3名にお話しを伺います。
税理士を志したきっかけ
MC:
まずは、皆さんの税理士を志したきっかけと現在に至るまでの略歴を教えてください。
橋本:
私は大学時代から8年間、大手学習塾の塾講師をしていました。塾講師時代は学生から「将来の職業」についての相談をよく受けていました。良き相談相手になるためには、様々な業種について数字を用いながら語る必要がでてきます。そんな環境下、父親が税理士であったこともあり、税理士の世界に興味を持ち始めました。仕事をしながら25歳で簿財(「簿記論」「財務諸表論」)に合格した後、会計業界へ転職。個人の会計事務所で7年間の実務経験を経てから2022年6月、あいわ税理士法人へ入社しました。大学院に通学していたのは転職前の会計事務所勤務時代です。
兼古:
私も橋本さんと同じで、異業種から税理士業界へ転職しました。SE会社勤務時代から会計知識の必要性を感じていた私は、日商簿記検定試験の学習を開始。想像以上に簿記の勉強が楽しくなり、会計業界を志すようになりました。ゼロ科目で会計事務所に転職し、働きながら入所3年目までに「簿記論」「財務諸表論」「消費税法」の3科目に合格します。ですが、会計事務所も4年目からは任される仕事量が多くなり、なかなか税理士試験の学習時間を確保できなくなってしまいました。これをきっかけに、大学院通学を応援してくれる税理士法人(あいわ税理士法人)への転職を決意したのです。あいわ税理士法人への転職は2018年の9月です。
成田:
私は大学3年生から税理士試験の受験勉強をスタートしました。祖父の代からの税理士一家で育ったこともあり、税理士という職業を身近に感じていましたし、業務内容にも魅力を感じていました。明治学院大学・大学院(法と経営学研究科)在学中に本試験3科目に合格し、税法2科目免除を果たすことができました。内部進学者は、大学4年生を経ずに大学院への飛び級できる制度があったので、5年間で税理士資格取得の要件を満たすことができました。あいわ税理士法人は2022年6月に新卒採用枠で入社しています。
MC:
成田さんは学生時代から税理士になることを決めていた分、税理士資格取得の「最短ルート」を歩んだわけですね。
成田:
たしかに、20代前半で税理士有資格者になれたことは良かったです。ですが、税理士としての実務経験をきちんと積んでいかなければ、今までの学習してきた知識も机上の空論になってしまいます。今はとにかく1日も早く税理士として成長していきたいです。
大学院の選定について
MC:
成田さんは明治学院大学大学院へ内部進学されましたが、橋本さん、兼古さんはどういう基準で大学院を選定しましたか?
橋本:
私が大学院進学を考えたのは、前職時代に税理士試験の受験勉強時間を確保できずに焦っていたからです。とにかく、確実に税理士資格を取得したい一心でした。
私が進学したのは、立教大学大学院経済学研究科です。立教を選んだ理由は3つあります。1つ目の理由は、前職の会計事務所が池袋にあり、職場から最短距離の大学院であったことです。2つ目は、立教に通っていた税理士の知人も多く、事前に情報を得ることができたので安心感がありました。3つ目は、もともと理系なので経済学研究科を選択したかったからです。
兼古:
私も確実に税理士有資格者になるために大学院進学という選択をしました。選んだ進路先は、青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科です。いわゆる会計大学院で、一般的にはアカウンティングスクールと言われていますね。1年半で修了できるコースに魅力を感じたことと、あいわ税理士法人(品川)から通いやすかったことが理由です。
MC:
大学院進学に際して、特段準備したことはありますか?
成田:
前述したように、私は明治学院大学からの内部進学でした。ですので、学部生時代に大学院の教授にアポイントをとり、直接アドバイスを頂戴することができました。筆記試験は免除されましたが、教授からは「君が税理士になるために大学院で何をしたいの?」ということは聞かれました。
橋本:
恥ずかしながら、私は最初の大学院受験で不合格となりました。正直、全く準備が足りていませんでした。その分2回目の受験では、きちんと「研究計画書」を準備しました。具体的には、まず「何を研究するのか?」を選定する必要があります。一般的な手法ですが「租税判例百選」を眺めて、個人的に一番興味を持てそうなテーマを選びました。
研究テーマについて
MC:
橋本さんの選んだ研究テーマは何ですか?
橋本:
移転価格です。移転価格税制の論文は非常に多く、後々苦労することになったのですが(笑)。「研究計画書」の準備の他には、金子宏先生の名著「租税法」はしっかり読みました。あとは、大学院受験を経験した友人から入試対策資料を入手して「土日は理解」「平日は暗記」というようにメリハリをつけて勉強しました。
ともあれ、最終的には「面接」で合格できたような気がします。多くの税理士受験生が「科目免除欲しさ」に大学院進学を検討することは、大学院の教授も重々承知しています。
面接では「大学院に通学することについて会社の理解はあるの?」「卒論を書くための時間はきちんと確保できるの?」と、しつこく聞かれた記憶があります。他の大学院の面接でもここはよく聞かれるようです。
MC:
兼古さんはいかがですか?
兼古:
橋本さんの苦労話の後に申し上げづらいのですが、大学院入学向けた準備をした記憶がほとんどありません(笑)。もちろん、研究計画書は提出しましたよ。当時は仕事が忙しかったこともあり、1週間程度の準備でクリアできました。
研究テーマについても、大学院入学後に「このテーマにしてはどう?」と教授側からエスコートしていただきました。具体的には「法人税法132条の2(組織再編成に係る行為計算否認規定)」です。
MC:
大学院で税法を学んで良かった点はどんなところでしょうか?
つらかったこともあれば併せてお聞かせください。
橋本:
やはり、判例に基づいて条文を咀嚼することで「租税法」の考え方を身につけることができた点ですね。税理士試験の受験勉強では、とにかく公式を暗記するような要素が多かったと思います。大学院では「租税法」の根幹に触れることができました。
大変だったのは、当時の履修科目に「欧州の税法を学ぶ」講義があったのですが、その科目の履修者が私1人で(笑)。これは本当にきつかったです。教材はすべて英語。講義は常に教授と私のマンツーマンでした。とは言うものの、EU経済の基礎的な知識を習得することができました。学びに無駄はないと思います。
大学院では「人との出会い」も楽しみにしていたのですが、コロナ禍真っ只中ということもあり、講義はすべてリモートでした。選択科目の履修相談もできなかった。大学院の仲間とリアルで対面したのは卒業式が初めてなんです。その場で連絡先を交換して、何人かとはいまでも連絡を取り合っていますよ。
兼古:
橋本さんが言ったように、大学院で学習する最大のメリットは「租税法」に触れることです。
税理士試験の受験勉強は各論で、「法人税法」「所得税法」「消費税法」などの税法科目を個別に学習しますが「租税法」は、いわば総論。そもそも、税とは何か?ということについて考える時間を持てたことは有意義でしたね。
参考までに、租税法の基本原則は「租税法律主義」と「租税公平主義」です。日本国憲法は、国民に法律の定めのない課税はされないこと(租税法律主義)と、租税は同様の状況の下で一人一人、同様に取り扱われること(租税公平主義、平等原則)を定めています。この基本的な解釈からは様々な論点が派生するのです。
実務でクライアントから難易度の高い質問をいただいた際も、判例を理解する重要性を感じます。こうした部分は非常に役立っています。
成田:
私の場合、大学が経済学部でしたので「法学」や「経営学」には全く触れず、大学院に進学してから初めて法律・経営を学びました。数字中心の経済学と条文中心の法学の双方を学ぶことができて「考える幅」が広がったと思います。数字と異なり法律は答えが1つではない。判例や学者の見解に触れることで、考えの素地ができました。
私の卒論テーマは「取引相場のない株式の株価算定」で、令和2年3月24日の判例(タキゲン事件)です。非公開会社の株価算定に係る論点を学生時代に学べたことは大きな財産です。
税理士受験生の皆様へ
MC:
最後にこれから大学院進学を検討している税理士受験生にアドバイスをお願いします。
橋本:
やはり「職場の理解」は絶対的に必要です。「大学院は楽勝」などと考えてはいけません。どの大学院でも1割から2割の学生は留年していると聞きます。卒論についても、過半数の学生が落とされた年もあるようですし。ですので「大学院に通いながら仕事をしている人がいる」職場を選ぶことが、実は一番大切なのかもしれません。
兼古:
私の大学院では、途中でゼミを変更した人がいました。非常にレアケースですが、教授との相性も大事ですよね。
橋本:
私は完全リモート時代の大学院生活でしたので、担当教授と直接お会いしたのは10回にも満たなかったです。相性も判断できずに卒業してしまいました。
成田:
たしかに、教授との相性はありますよね。「知らない間に自分が意図していた研究と異なる方向」になり困惑している学生もいました。締切日直前に「論文の差し戻し」も珍しくありません。60ページから70ページの論文を差し戻されてはたまりません。教授とのコミュニケーションは大切ですね。
橋本:
大学院進学のデメリットを強いて挙げれば、学費が年間150万円程度と高額であることでしょうか。私は補助金や奨学金制度を活用して30万円程度節約できましたが。
兼古:
大学院へ通う大きなメリットの1つは「人脈形成」ではないでしょうか。大学院の学生は「税法免除目的」の税理士受験生ばかりだと思っていたのですが、実際に入学してみると税理士業界の人は半数程度で、上場企業の部長クラスの方々、経理担当者、税務担当者など、様々な先輩方と知り合うことができました。現場の苦労話を耳にすることで「クライアントの気持ち」に触れることができたのは大きな財産です。
橋本:
「大学院の税法免除組は官報合格者に劣る」と囁かれることもありますが、そんなことはありません。税理士試験の一発勝負の緊張感はないものの、確実に2科目分は勉強することになるので、それなりの覚悟が必要です。大学院は決して逃げ道ではありません。
成田:
そうですね。いずれにせよ、税理士は実務に就いてからが本番です。税理士登録を終えて、どれだけ頑張れるか?税理士として成長できるのか?が大切だと思います。大学院は税理士に近づける選択肢の1つです。私のように大学時代に税理士を志した方にはお勧めできる道です。
MC:
本日は貴重なお話をありがとうございました。
合格体験記を読む
税理士試験の科目免除申請が可能となる研究科は「商学研究科」「経営学研究科」「経済学研究科」「法学研究科」「会計大学院」です。どの研究科を選択するかによって修士論文のテーマが異なります。
大学院入試は1月・2月の実施が多いですが、7月頃から実施する大学院もあります。一般入試または社会人入試の入試方式を選択し入試科目を選択します。専門科目が出題される入試対策は半年前程度から準備を進めている人が多いようです。ただし、基礎知識ゼロの人はさらに早めの準備が必要と言えるでしょう。
(参考情報)税理士試験の科目免除が受けられる大学院(関東地区/50音順)
亜細亜大学大学院 経済学研究科/法学研究科
青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科/法学研究科
大原大学院大学 会計研究科
嘉悦大学大学院 ビジネス創造研究科
神奈川大学大学院 法学研究科
関東学院大学大学院 法学研究科 法学専攻
國學院大學大学院 経済学研究科
国士舘大学大学院 経済学研究科
埼玉学園大学大学院 経営学研究科 経営学専攻
産業能率大学大学院 総合マネジメント研究科
尚美学園大学大学院 総合政策研究科 政策行政専攻
成蹊大学大学院 経済経営研究科
専修大学大学院 商学研究科/法学研究科 法学専攻
高千穂大学大学院 経営学研究科
拓殖大学大学院 商学研究科 商学専攻租税法専修
千葉商科大学会計大学院 会計ファイナンス研究科/商学研究科
中央学院大学大学院 商学研究科 商学専攻/経済学研究科/商学研究科
筑波大学大学院(人文社会ビジネス科学学術院、ビジネス科学研究群 法学学位プログラム)
東京国際大学大学院 商学研究科
東京富士大学大学院 経営学研究科
東洋大学大学院 経営学研究科 ビジネス・会計ファイナンス専攻/法学研究科 公法学専攻
名古屋商科大学ビジネススクール 会計ファイナンス研究科(東京校)
日本大学大学院 経済学研究科/法学研究科
白鴎大学大学院 法学研究科
聖学院大学大学院 政治政策学研究科
文京学院大学大学院 経営学研究科
平成国際大学大学院 法学研究科
武蔵野大学大学院 経営学研究科 会計学専攻
明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科/会計専門職研究科
明治学院大学大学院 法と経営学研究科法と経営学専攻
明星大学大学院 経済学研究科
立教大学大学院 経済学研究科
立正大学大学院 経営学研究科/法学研究科
麗澤大学大学院 経済研究科
LEC東京リーガルマインド大学院大学 高度専門職研究科 会計専門職専攻